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シーグラス

今でも時々、

人混みの中で、

胸元にキラッと光るシーグラスを

持っている人を見つける。

若い頃は、

「あ!あたしのカケラだ!」

と全速力で近づいていって

その方の両手を握って

ブンブンとオーバーに握手をしていた。

そんなことをされたら、

自分も怖いくせにね。

もうしないように心がけている。

そのシーグラスは、

あたしのカケラではない。

似ているかもしれないが、

わたしのものではない。

「あの…失礼ですが」

と声をかける。

その方は、少し困ったような、

けれどとっても優しい表情で、

そのシーグラスをわたしの手をとって

そっと分けてくれる。

軽い会釈をして、そのまま。

わたしは背中を見送る。

シーグラスは強く握っても、

わたしの手のひらの中で

ザラリとするばかりで

元はガラスだったことをすっかり忘れているようだった。

わたしが配る番になった時も

そうであってほしい。

傷つけない綺麗なものになるには

時間と、寄せては返す液体状のヤスリが

必要なのだ。


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